「何も知らない」

久しぶりに組織内の人を育てるという仕事に関わっている。

ある日本のベンチャー企業でマーケティングの立上げを請け負っているが、それと併せて一人マーケティング担当者育てて欲しいというリクエストを受けた。
当初は、マーケティング・コミュニケーション・ツールを一通り準備して、一段落したところで、経験者採用という話だったのだが、社内からぜひその仕事をやってみたいという声が上がり、急遽社内で育成ということになった。

自ら手を挙げたのは、20代前半のM子さん。
転職前の仕事はテレセールスだった。

別の顧問先でもマーケティングを請け負っている。
こちらは外資系企業で同じく委託されている内容は同じくマーケティング分野だが、アジアに本社があるため、ブランディングおよびマーケティングについては、ガイドラインが本社で策定されている。
ある程度ツール類のローカライズを終えたため、私自身はこの会社を離れて、新たにマーケティングマネージャを雇うことになった。

こちらは30代前半のKさんという女性である。
転職前はUSに本社のある外資系企業でマーケティングを担当されていた。

前者のM子さんの場合は、育成。
後者のKさんの場合は、引継ぎ・・・である。

ほとんどゼロから育てることになったM子さんだが、土に水が浸み込むようにどんどん吸収していく。
自分の職務範囲を限定せずに自分のできることをどんどんやっていく。
本当にベンチャー企業の欲しい人材だと思う。

「何も知らない」と言えることはある種の強みだと思う。
「何も知らない」からどんどん聞けるし、周囲もその前提なので嫌な顔をしないし、時々フライングもあるが、それは「頑張り」として受け取られる。
もちろん、単に「何も知らない」ではなく、周囲もそれをわかっていてマーケティング担当という仕事を任せたという理解があるからこそ、こういうことが上手くいく。
好奇心旺盛な彼女は、手帳の使い方から、接待時のお店の選び方や対応、目を通しておいたほうが良い業界情報など、会うたびにたくさんの質問リストをぶつけてくる。持っている知識を受け取ってくれる人がいる・・というのも幸せなことだ・・・と、質問に答えながらしみじみと思う。

一方、後者のKさんは経験者であり、それを前提にマネージャーとして採用されているから、「何も知らない」ということは通らない。
私からの引継ぎも、使っている業者について、本社のカウンターパートとのやり取り、現状のローカライズ済みのものも今後の予定、等の説明で終わる。
あとは自発的に質問をしてくることに回答するという形になる。
基本的にマーケティングに関するすべてのことがKさんの判断で動くことになる。
「何も知らない」とはいえないので、質問の仕方も一考する必要がある。
フライングもマネージャーであれば、許され難い。周囲のコンセンサスを取りながら、進めていかないと社内の関係がぎくしゃくする。
自分の仕事と他部署の仕事の線引きが曖昧なグレーゾーンにどう対応するか、対応を誤ると自分の部署に成果が見え難い且つ手がかかる・・やっかいな仕事がやってくる。
やっかいな仕事ばかりやっていると、当然肝心な部分の仕事(グレーではなく、白黒はっきりしている本来の仕事)ができなくなり、機能不全に陥る、そうすると他部署から叩かれ、社内の立場が弱まり、またグレーな仕事が増えていく・・・という悪循環になる。

好循環に切り替えるには、社内の人ととにかく積極的にコミニケーションをして情報をできるだけ集める。国内のスタッフとも、本社のスタッフとも。
ベンダーや私のようなアウトサイドで働く人をうまく利用する。
自分のやっていることを常にわかりやすく周囲に見せておく。
幸い日本法人はまだ人数が少ない、これから毎月少しずつ人が入ってくると言う状態なので、早め早めに自分のポジションを固めていくことが大切だろう。

・・・というようなことをKさんに私の口からアドバイスをするのは、実はなかなか難しい。なぜなら、私は単なる引継ぎであって、Kさんの育成をまかされているわけではないから、相談されればこのような話も自分の意見として言うことができるが、彼女の上司でもないのにこんな話はできやしない。

こんなことを書くとものすごく冷たいな印象を与えるかもしれないが、外資系ってそういうもんだと思う。
それは競争が激しいというのとはまたちょっと違う。
自分の責任下(この場合だとKさんの育成)にないことを指導するというのは、ある種無責任な行為だし、私の委託されている仕事の範囲から完全に逸脱しているのである(請け負っている金額に見合わないと言う話ではなく、そんなことをする権限がそもそも与えられていないのである)

前者のM子さんの場合、社内全員でティーチングしながらコーチングしているという状況だけれど、後者のK子さんの場合は、少なくともティーチングの指導は必要ないという前提で採用されている。

一見、経験のないM子さんのほうが大変そうだが、どうしてどうして、実態はKさんのほうが数倍も大変なのだ。

このクラスの人材はコーチの一人ぐらいプライベートでつけておいたほうが良いと、しみじみ思う。

あれこれ人に聞くことができなくなった立場の人に、コーチというのは必要不可欠になりつつあるのではないかと思う。

そして、こういうことをちゃんと知っていて、コーチをこっそりつけている人というのは、案外いるものである。

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