プロの仕事は全体最適

 先日、飲み会で同席した50代の男性がご自分の家事能力について得意げに話していた。

話の内容は、奥さんが1週間入院をしたため、その間の家事をやってみたが、全然大したことはなかったというものだ。
自分は、営業課長として忙しい仕事をしていても、十分家事ができたのに、妻はパート仕事での家事だから、随分ラクなものだ…と言い放っていた。
お子さんはいないそうだ。

 「洗濯機なんてボタン一つ、うちのはカレーを市販のルーで作るが、俺はカレーをルーからちゃんと作ってその日は半分をカレー鍋、あとはカレーを6食分冷凍しておいた。掃除機があれば、掃除だってあっという間だった。」

このぐらいの年代の男性にはこういう発言をする人が、私の周囲では比較的多い。

申し訳ないが、普段の仕事ぶりから見ていても、この人の家事は単純な「部分最適」だと思う。
1週間だからなんとかなったのであって、これが奥様の病状が思わしくなく1ヶ月に延びたりしたら、もう家事について語らないだろうと思う。(短期間だと思うと人は張り切って頑張れるものだ)

洗濯もなんでもかんでも放り込んでボタン一つでは済むこともあるが、ひどい汚れのあるものの下洗いとか、洗濯機に残った糸くずをこまめに捨てたり、洗濯機そのもののメンテナンスとか、その後のたたみ方やアイロンがけなどかなりいい色々とある。もちろん、洗剤だっていつも切らさないように残量をチェックしておく必要もある。

普段、市販のルーでカレーを作っている奥さんは、自宅に戻って亭主が張り切って買い込んだスパイス類を見て、どうやって使いきるか、頭を悩ませるのではないだろうか?そんなの亭主はお構いなしである。

冷凍庫にびっちりとカレーの在庫があるのも、他のものが入れられなかったり、ものが多すぎて庫内の温度をさらに下げる必要があれば、電気代も上がる。
またカレーをプラスチックの収納容器に入れると、油と匂いを落とすのがかなり面倒なのである。

食材が残っていれば、食材を鮮度のいいうちに回し切るために、買ってきたものから優先して使わなくてはならず、そのうえできれば和食は和食で、洋食は洋食で献立をまとめたい、などと考えるのも結構厄介だし、実際かなりのスキルを要する。(さらには買える食材や調味料は常に家計簿と相談が必要だ)

掃除機をかければパッと終わるというのも動線を考えた暮らしを奥様が作っているからできることで、そんなことまでは彼は思いもつかないだろう。

1週間たいした不便なく暮らせたということは、色々ときちんと整理されていてわかりやすい住空間に整えられているのだ。入院される前に、夫の家事スキルに合わせて、それだけ準備されていたのではないかとも想像できる。

どんな仕事にも外から見てわかりやすい部分とわかりにくい部分がある。

彼がやっている法人営業の仕事もそうだ。素人でもまぐれ当たりすることは結構ある。
たまたまお客さんが、欲していた品物やサービスをいいタイミング持っていければ、がっぽり買ってくれることもある。商材そのものが時代にあったり、ブームになれば、それだけで1年ぐらい稼げることだって結構ある。

でも、そのラッキーを「法人営業なんて簡単ですよ。欲しいと思っているお客さんに、それを持っていけばいいんです」なんて言われたら、営業一筋30年の彼は激怒するだろう。
私だって、「何言ってんじゃ」と思う。

私たちは通常、まぐれ当たりで終わらせないように、この商材からさらに関連する他の商品を売り込めないか(クロスセル)、グループ会社や他部門にも紹介してもらえないか?お客様は欲しいと思っているが、稟議をスムーズにあげてもらうにあたり、さらにこちらからサポートできることはないか?というようなことを考えながら、日々お客様を訪問して営業をかけている。

一方で、お客様のヒアリングを聞き、今買ってもらっている商材を買い続けてもらうことができるか?そろそろブームが終わりそうだが、次はどのようなものをお客様は考えているか?を引き出し、それを社内にフィードバックして、さらによい商材やサービスを生み出してもらう必要もある。

個人的にプレゼーションスキルを磨いたり、資料作成をもっと早くわかりやすくしたり、というような自分のスキルアップも片手間で行い、これら全部まとめて法人営業としての仕事が成り立つわけで、もちろんこれ以外にも社内の事務処理とか会議とか山ほどやることがある。

マーケティングやプロモーションの仕事も同様で出来上がった仕上がりあれこれ思いつきで、センスが良くないなどと、文句をつけるのは結構だが、仕事はすべからく決められた期限と予算、そしてリソースの限界があり、それらのプロモーションをツールを活用できる人材が現実的に社内にどのぐらいいるのか?後ろの運用管理は全く考えずに、とにかくクールなランディングページだけ作りたいとか、後ろの営業プランもなしでお金を掛けたカッコイイセミナーやりたいだの展示会に出たいだの…と、部分しか見ていない人は、本当に山ほどいる。

どんな仕事もそうだけれど、部分だけできても仕事は成り立たない。
常に実行しては、調整して、現実的な落とし所を見つけて、また試してということの繰り返しだ。

他人の仕事はラクそうに見えるが、家事1つとっても、そこには現場のノウハウが山ほど詰まって運営されている。

全体最適を考えて実行するのがプロの仕事。

プロの仕事は地味なことの積み重ねで、端から見るほどラクでも格好良くもないけれど、そういう地味で確かな仕事をするプロの人との仕事ができる機会が多い、私の今の仕事は幸せだ…としみじみ思う。

一方で、部分最適の話を声高にする人に会う機会も多く、「アホか」と思うことも多い。
若い頃は、「アホなんですか?」と言ってしまったが、最近は静かにニコニコしていられるようになり、自分もまたプロに一歩近づいているのではないかと、思ったりもしている。

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コメント

  1. ファンです

    超絶スッキリ!さすが、気持ちいい想破(心の中なので論破ではなく)
    私も最近、こういう輩をスルーできるようになりました。
    四十にして惑わず。
    そしてこういう男性は回りに生かされて自分の仕事があることに今後一生気付くことはないんですよね。
    あー、活字でこんなにスッキリさせてくれる、さすがです。

  2. yoshikoo

    うれしいコメントありがとうございます。
    華麗にスルーできるようになるとこの手のことも楽しいですね。
    年齢を重ねるごとにスルー力が高まり、どんどん楽しく暮らす能力が高まってくるような気がする最近です。

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