そのコスト削減は正しいのか?

美容院でいつもあなたはどんな風に過ごしているだろうか?

1. 美容師さんとおしゃべり
2. スマホでSNS
3. 店内においてある雑誌を読む
4. 持ってきた本を読む
5. せっかくなのでボーっとする
6. その他

私は30代から白髪に悩まされている。
しかも、ヘアカラーにアレルギーがあるようで、ヘナのような自然派素材を使っても頭皮が痒くなってたまらないので、ヘアマニキュアで白髪をカバーしている。
ご存知の方も多いだろうが、ヘアマニキュアは洗う度に落ちていくので、ヘアカラーに比較すると格段に色の持ちが非常に悪い。
その上、ショートカットということもあって、そこそこの外見を保つには、最低月に一度は美容院に行かなくてはならない。
そして、ヘアマニキュアのようなカラーリングものは、それなりに時間がかかるため、だいたい2時間ぐらいは美容院にいる。

毎月通っている美容院が、2017年の終わりぐらいから、それまで置いていた雑誌類を止めて、代わりにiPadを置き、「dマガジン」をお客様サービスとして提供し始めた。

「dマガジン」をご存知ない方に簡単に説明すると、これはNTTドコモのサービスで、月額400円(2018年1月現在)を支払うとスマホ、タブレット、PCで200冊以上もの雑誌が読めるというサービスだ。
雑誌もいわゆるゴシップ系から、おしゃれなもの、ビジネス物とかなり幅広く取り扱っているので、多くの雑誌を読む人にはとてもオトクなサービスといえるだろう。

リアルな雑誌を廃止して、dマガジンを提供する場合、美容院におけるメリットは以下のあたりだろうか?

1. 収納スペースの削減
2. 雑誌購入費の削減
3. 廃棄作業・購入作業を削減
4. 自分の店の客層に気に入られるるであろう雑誌の選択の難しさがなくなる
5. 来店されたお客様ごとに気に入るであろう雑誌を選んで渡すという結構難易度の高いスキルが必要なくなる
(例:40代の女性に、あやまって50代女性をターゲットにした雑誌を渡してしまう。)

今は美容師の専門学校も全国のあちこちで潰れているらしく、私の通う美容院もリクルーティングも全国規模で学校訪問などしているらしい。こちらもまた人手不足の業界のようだ。

しかも美容師というのは、かなり重労働な上に拘束時間も長く、下積み期間も長いため若いスタッフの入れ替わりが激しく、従業員の引き止め(リテンション)も難しい問題だということで、上記にあげた(3),(5)のような、美容師のスキルアップに一見必要そうに見えない作業はやらせたくないというのもあるのかもしれない*

さて、その一方で雑誌は発行部数も減り、購入する個人も減っている。
(参考記事:日本の主要雑誌 – 発行部数の推移(2008年〜2016年))
まずその原因の第一はインターネットによる情報収拾のほうが雑誌よりも手軽でコストが掛からない点だと思うが、その他に嵩張る雑誌類は、収納スペースの問題や廃棄作業の鬱陶しさなどもある。
私自身、購入頻度も金額もインターネットのなかった学生時代に比較してガクンと減った。

とは言え、これは雑誌が読みたくなくなったわけではない。購入しなくなった原因に過ぎない。
このようなコストや面倒さえ省ければ、雑誌そのものは読みたいものに入る。
そして、購入しなくなった雑誌を読む場として最適だったのが、美容院だった。

ところが、美容院の雑誌は撤廃されてしまった。
しかし、dマガジンで好きな雑誌がいくらでも読むことができることができる。これは、顧客にとって嬉しいことだろうか?

なるほど、興味のないジャンルの雑誌を持ってこられたり、既に目を通したものを持ってこられる心配もないし、読み終わって次のものが欲しくてもなかなかスタッフが気づいてくれないこともある。
こういった不満は解消されるのかもしれない。

…が、一方で実際に使ってみると

大きめのiPadであっても、ファッション誌など誌面全体を読みたいものには、非常に読み難い。
「このモデルさんのはいているスカート素敵だわ?どこのブランドだろう?」
というような場合には、いちいちその部分をピンチするのが面倒だし、ピンチ**すると今度は写真の全体像が見えなくなり、紙の雑誌に比較して一覧性が非常に悪い。

もちろん、この手の操作は、スマホヘビーユーザーの若い人たちにとってはなんとも自然な流れで、全体像が見えないのもごくごくあたりまえなのかもしれで気に留めないのかもしれない。
若い人が喜べばいいのかな?とも思わなくはない…が、

見ていると若い人は、ほとんどこのiPadを使っていない。
大体の人は、自分のスマホでSNSをしたり、Youtubeを見たり、ゲームをしたりしているので、全くiPadを触っていない。
そもそも雑誌もあまり読んでいなかった層である可能性も高いだろう。

若い人のほうがオシャレに敏感ではあるが、実は美容院のメイン顧客は年配女性。
ある程度お金があるのと、老いを隠すために、ボリュームの少なくなった髪にパーマをあて、白髪染めをして、さらにカットというフルコースのお客様も多いし、時間があるのである程度定期的に通ってくれる。

一方、私の娘(26歳)などは、オシャレにそれなりに敏感だけれどお金も暇もないので、ネットでうまくいろんなテクニックを収集して、きれいに髪をまとめる方法を知っていたりするし、もちろん白髪染めも必要ない。
そして、何と言っても多少無造作であってもカットがバラバラであっても、若さという美しさがあるから、まぁそう頻繁に美容院に通わなくても見苦しくないのだ…。

髪染め、パーマ、カット、結局一番お金を使うのは中高年なのだ。

しかも、私の通っている美容院というのは、地元ではある程度おしゃれでお高めらしいのだが、ロケーションは江東区下町エリア。
とびきりのおしゃれな人が行く場所ではない。
私がオシャレじゃないのでわからないだけかもしれないが、そもそも美容師の腕の良し悪しってとんでもないレベルじゃないとわかならい。
私の想像では、この美容院にやってきているお客様は、地元に暮らす人や通勤圏の人などで、何となく…で入ってきて、まぁ居心地がいいし、ここでいいかな‥ぐらいで常連になっているのだと思う。

話を「紙の雑誌」 vs 「iPadの雑誌」の話に戻そう。

そもそもどの美容院に通うか?というのに、さしてこだわりのないお客様がメインの売上ボリュームだとすると、たまたま自分が行きたい日に予約が取れず、他の美容院に行ってみたが、そこが決して悪くなかった…というような時に、結構あっさりと定期的に通う美容院を変えるというお客様は少なくないだろう。
しかも、そこにたくさんの紙の雑誌が読み放題であれば…

スイッチングコストについて考えてみよう
スイッチング・コストとは、ある商品から他の商品、あるいはあるブランドから他のブランドに切り替えることに伴って発生する費用である。 金銭的な費用に限らず、切り替えに伴って必要となる習熟や慣れに要する時間(の機会費用)や心理的費用なども含まれる。(Wikipediaより)

美容院を変えることのスイッチングコストは、考えてみるとかなり低い。
とにかく街中には山のように美容院があるし、特に特化してオシャレだとか有名だとかという美容院でなければ、実際大半の人は通いやすく、それなりの値段で、居心地がよければいいという人が多いだろう。

紙の雑誌をiPad購読に替えたことで、一見コストが削減されたように見えるが、これが長期的に見るとお客様離れにつなるのではないかな?と思っている。結局のところ、この切替は、若いお客様にはほとんど関係なく、中高年者には不便を強いているだけで、満たされるのはお店の都合だけのようだ。

この手の目先のコスト削減や生産性という言葉に目を奪われて、大事なことを失っていくケースを見かけることが多くなったような気がする、今日このごろ。
新しいものをどんどん取り入れるのは重要だけれど、いろんな角度から物事を見てから決めていくことはもっと重要だと思うのだ。

* 美容師として一人前になるには、実際には相当のコミュニケーション能力の高さが必要だと思われるので、本来〔5〕であげた「来店されたお客様ごとに気に入るであろう雑誌を選んで渡す」というのは、大事な修行だと思うが、どちらかと言えばカットやスタイリングのテクニック、センスの良さ重視の若手には、なかなか理解を得難いようだ。

** 「ピンチ?」って何?という方は、ぜひこちらの記事をわかりやすくまとまっています。
スワイプ、ピンチイン、ピンチアウト。今さら聞けないスマホの操作方法まとめ」 

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