バーナード・リーチについて

※2020年2月29日第4回目の読書会「サードプレイス  ~一緒に本を読む会~」は中止となりました

第4回目の読書会「サードプレイス  ~一緒に本を読む会~」では、原田マハさんが書いた「リーチ先生」を取り上げます。
すでに一緒に運営するTomokoさんから、この本についての紹介記事はいただいて掲載しています。

読書会:リーチ先生について

「リーチ先生」というのは、イギリス人の陶芸家のバーナード・リーチのことで、この人は日本に滞在し日本の民藝運動に関わったことについても有名な人。

今回のこの記事は、私自身の思うバーナード・リーチについて書くことで、読書会に向けての何かしらの準備になればと思って書いたものです。
(専門的でもなんでもないので、そういったものを求めている方はここで離脱されるのが良いか…)

バーナード・リーチを知ったきっかけ

そもそも私が陶芸に興味を持ったのは、ルーシー・リー(イギリスを拠点に活動した、オーストリアのウィーン出身の女性陶芸家)の陶器の展覧会からで、温かみがありながら、色鮮やかという私の中では相反するものを持った彼女の器にほとんど一目惚れといった状態でした。

彼女の作品を観て、初めて身近に置いておきたいアートというものが自分にも存在するのだとわかりました。
この後、私の作品の好き嫌いは、身近に置きたいかどうか、温かみや素朴さというのが作品にあるか‥という点が、かなり大きなポイントになりヨーロッパの絵画とかは重すぎて、展覧会に足を運ぶことはほぼなくなりました。

どの展覧会なのか憶えていないのですが、同じ陶芸ということからか、もしくは親交があったからなのか、バーナード・リーチの作品も一緒に展示されていることが何度かあった記憶があります。

それが、おそらくリーチの作品を知ったきっかけだと思います。
この地味だけれど、温かみのある作品を作る人は誰?
全くルーシー・リーの作品と似ていないけれど、なぜ一緒に?と調べてみたところ、彼女が陶芸をはじめて早い時期に、リーチが、ルーシー・リーを酷評したことがあるということがわかりました。
このあたりの話は、以下のブログ記事」が詳しいです。

ルーシー・リーとハンス・コパー LUCIE RIE, HANS COPER:「バーナード・リーチとルーシー・リー」

それ以外にも日本民藝館その他の美術館で何度かリーチの作品を観ているのですが、素朴で温かみは感じられるものの、それ以上のものは感じられず、正直なところ作品としては好きでも嫌いでもない陶芸家といった印象でした。
ルーシー・リーのような色使いや、日本人であれば富本憲吉のような突き抜けた尖りがなくて、展覧会会場で目立たないのです。
「リーチ先生」の中にもこんな一節があります。

富本の作品に対してリーチが感じたのは、清潔で、明るく、影のない、前向きな印象、それはそのまま、富本自身の性質を映しているかのようだった。
しかしながら、リーチは、自分の目指しているのは、富本が創るものとは違うのだ、と気がついた。
自分が創りたいのは、何か、もっとあたたかみのあるもの。言葉にはできないような、やわらかく、やさしさのあるもの。富本の創るものには、きっと似ていない。

「リーチ先生」

小説によれば、富本憲吉とリーチは同じ時期に陶芸に出会い、陶芸を始めたようですが、作風は随分と異なります。

「リーチ先生」原田マハ著

原田マハさんの本は好きで以前からちょくちょく読んでいます。
特にアートを扱った「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」など有名な絵や画家についての物語が好きです。

そんな流れで、注目の作家さんであるところにひどく評判のいい「リーチ先生」という本。
ハードカバーはかなり分厚くて、それで評判がいいなんて、本当に面白いのだろうなぁ‥と以前から思っていました。

ある日出張で、以前からずっと訪れてみたいと思っていたアサヒビール大山崎山荘美術館(後述)の近くに行くことになり、よし、この機会に行っちゃおう!と思ったところ、その時の展覧会が「没後40年バーナード・リーチ展」(後述)でした。

この機会に「リーチ先生」を読もうと思ったところ、Kindle版が出ていて早速入手。
立ち寄り箇所の関係で、飛行機で伊丹空港から行きましたが、あっという間に物語に引き込まれてしまい、結局この日中にこの分厚い本を読み終えてしまいました。
実は移動中にかなり泣いてしまい、恥ずかしい思いもしています…。

この小説はあくまで実在の人物を題材に作られた物語ですが、一度この本を読んでしまうとバーナード・リーチという人は、日本という国、美術、そして素朴な作品だけでなくその制作過程の日本古来のやり方や手作業、つまり民藝というものを心から愛する人だったという人物に私の中ではなってしまいました。
こうなると彼の作品に対する見方も変わってくるのが不思議なものです。(当然ですが、作品は何も変わっていないのですが…)

この小説を読んで、これまで名前は知っていただけの文化人(高村光太郎、柳宗悦他)、作品は見たことがあるが、同時代の人とは知らなかった陶芸家(濱田庄司、河井寛次郎、富本憲吉)、作家とのつながり(武者小路実篤、志賀直哉)といった、点では知っていたり、聞いたことのある名前だったりした当時の人物がそれぞれがどんなキャラクターで、存在感だったのか‥など線でつながってくる醍醐味も楽しい点です。

出版元の集英社のサイトには、この作品に登場する実在の有名芸術家たちを紹介しています。
ご興味なる方は、Web集英社文庫サイトへGo。

没後40年バーナード・リーチ展-山本爲三郎コレクション

アサヒビール大山崎山荘美術館

アサヒビール大山崎山荘美術館は、JR京都線「山崎駅」、阪急京都線「大山崎駅」より徒歩約10分のところにある美術館です。自然に囲まれた立地、5500坪の庭、そして瀟洒な山荘には安藤忠雄氏設計の新棟「地中の宝石箱」などを加えた本当に美しい美術館です。
元々は、関西の実業家・加賀正太郎氏が大正から昭和初期にかけ建設した「大山崎山荘」という山荘だったようです。加賀氏は、ニッカウヰスキーの設立の際の筆頭株主で、亡くなる前に自身の株をアサヒビールへ。彼はアサヒビール初代社長であった山本爲三郎氏との深い親交があったようです。
加賀氏の没後、加賀家の手を離れた大山崎山荘は、平成のはじめには傷みが激しく荒廃寸前となり、さらに周辺が開発の波にさらされるなかで、貴重な建築物と周囲の自然の保護保存を求める声が多くあがり、京都府や大山崎町から要請を受けたアサヒビールが、行政と連携をとりながら、山荘を復元し美術館として再生することとなり現在の美術館という経緯のようです。

館内は撮影禁止ですが、お庭の撮影は自由。お庭だけ入ることもできるようでした。
訪れた日は生憎と土砂降りの雨でしたが、そのせいかかえって緑の匂いが強く感じられ、その静けさとあいまって、とても気持ちの落ち着く時間となりました。

アサヒビール初代社長の山本爲三郎氏は、民藝運動を支援してきたことから、生涯にわたりリーチと親交を結び、山本家からこの美術館に寄贈された山本爲三郎コレクションを中心に2019年に「没後40年バーナード・リーチ展-山本爲三郎コレクションより」開催されました。

没後40年バーナード・リーチ展-山本爲三郎コレクション

何度か観ているバーナード・リーチの作品もこれだけまとめて観る機会は初めてでした。
シンプルに焼かれたものだけよりも、リーチ自身により絵が施されているものが自分好みで、鳥、蛙、兎などがサラサラっと描かれたように見えるものにとても惹きつけられました。
特に気に入ったのは、赤絵の組皿で、九谷に特徴的な色絵がほどこされているもの。中でも天秤棒で苗を運ぶ農夫の絵は、ユーモラスでのんびりした感じもある一方で、日本的というよりもアジア的な印象を与え、とても素敵なものでした。
また、益子の濱田庄司邸に滞在中に描かれたという「竹林遊鶏図」という素描は、素朴でありながらとても惹きつけられるものがあり、ここから陶芸だけではなくリーチの素描にも注目するようになりました。

「バーナード・リーチ日本絵日記 」

「バーナード・リーチ日本絵日記は」昭和28年に19年ぶりとなる二度目の日本での滞在時にリーチ自身によって書かれた日記です。1年8ヶ月の滞在でリーチは日本国内のあちこちの名所や民藝を見て回り、西洋化しつつある日本の変わり方などを眺めて感じたことなどが綴られています。
絵日記とあるように、リーチの素描がたくさん収められています。
読んでいると日本の自然の美しさ、手仕事の素晴らしさはもちろんのこと、勤勉で素朴であった当時の日本人に対して、彼が非常に愛情を持っていることが伝わってきます。

 ここより大人数のセント・アイヴスよりも、一年中にどうしてここでこんなに多くの仕事がはかどるのか、私にはいつも不思議でならない。我々がりっぱな計画と電力とコンクリートの床、照明、規則正しい勤務時間などによって、いろいろ試みても、自由のための知的努力の分野以外では、我々はもっと不自由である。
〜中略〜
彼らは強制して働かせる必要がない。彼らにとって仕事は友なのだ。それはあたかも、日本の田畑を目の楽園にしてしまう農民の伝統的背景にすべてについても同様である。

「バーナード・リーチ日本絵日記」

日本民藝館

実際にバーナード・リーチの作品を観たい!という方に、オススメしたいのが「日本民藝館」。

こちらには、約120点に及ぶリーチの作品があります。
美術館の建物も非常に素敵で、もちろんリーチ以外にもたくさんの有名な工芸家の作品があります。
小さくはありますが、ミュージアムショップも民藝品が中心で、最近のおしゃれなデザインではあるが、どこのミュージアムショップもなんだか似ているよね?‥というのから、一線を画しています。

私の好きなコースは、京王井の頭線「駒場東大前駅」で下車し、東大校内にあるルヴェソンヴェール駒場でランチをして、日本民藝館を訪れ、帰りはぶらぶらと渋谷方面に抜け戸栗美術館に立ち寄って、美しい陶器を眺め、渋谷駅に出るというものです。

おまけ:青空文庫で読める柳宗悦

リーチ先生にも頻繁に登場し、彼の日本での活動を大きく支援した柳宗悦。日本民藝館を企画し、初代館長も務めました。
彼の民藝についての本は、青空文庫で読むことができます。
興味ある人にはこちらもおすすめ。私もちょくちょく読んでいます。

 

最後に:読書会へのお誘い

※2020年2月29日第4回目の読書会「サードプレイス  ~一緒に本を読む会~」は中止となりました
2月29日(土)に日比谷で、この記事で取り上げました「リーチ先生」の感想を好き勝手に言い合う読書会を開催します。
もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご参加いただけますと嬉しいです。
今回は初めて出席される方がかなり多い回となる見込みです。

申込み先

https://thirdplace-event004.peatix.com/

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