Book Review:書くことについて

「書くことについて」はタイトルそのまま、モダン・ホラーの帝王と呼ばれるスティーヴン・キングが書くことについてまとめた本。
どうやって小説家になったのか、プロの小説家になるには、そして小説を書き続けるにはどうすればいいかが簡潔に温かい筆致で綴られている。

この本は小説家になりたい人だけでなく、私のように小説を読むのは好きだけれど、書くことに興味がない人にも十分楽しめる内容だ。

本書の構成

目次では区切られていないのだが、全体の構成は以下の通り(訳者あとがきより)

  • 履歴書(C.V.)
  • 道具箱(Tool Box)
  • 書くことについて (On Writing)
  • 生きることにつて(On Living)
  • 閉じたドア、開いたドア(Door shut, Door open)/li>
  • ブックリスト

履歴書(C.V.)

彼がどんな家族の中で子供時代を過ごし、どうやって書くようになったのか、そして結婚して家庭を持ち、何度も拒絶された彼の原稿がどのように出版社に受け入れられるようになり、「キャリー」で成功をつかみ、その後アルコール中毒や薬物中毒になり‥というようなこれまでの人生が書かれているのがこの章だ。

キングは決して、いわゆる育ちのいい人ではない。
ただ彼は自分の頭をフルに使って生き抜いてきた人だというのがよくわかる。そして、他人の目とその気持にとても敏感だ。
こういった彼の生き方が、この本の彼の文章にもよく出ている。とにかく人間臭い。そこがまたファンを魅了するのだろう。

よく使うものはいちばん上の段に収納する。この場合は文章の糧、すなわち語彙である。それに関しては、手持ちのものだけでいい。量が少なくても、罪悪感や劣等感をいだく必要はない。娼婦が恥ずかしがり屋の船乗りに向かってこう言うのと同じだ。「問題は、大きさじゃなくて、どう使うかよ」
P149

背景情報に関する最も重要な留意点は、ひとにはかならず個人史があるということと、それは総じてさほど面白いものではないということである。背景情報は面白いところだけをとりあげ、そうでもないところは無視したほうがいい。個人の長ったらしい昔話はバーで聞いてもらうのがいちばんだ。できれば、閉店の一時間ほどまえに。できれば、あなたが勘定を持つときに。
P304

さらにここでは・キングが学生時代にバイト先で書いた原稿をプロに手直しされたエピソードがあり、どういった文章をどのように直されたかの実例の文章もあり、非常にわかりやすい。
キングが何度もこの本の中で述べている余計な言葉を削る重要性は、ここから始まっている。

道具箱(Tool Box)

小説を書くにあたって必要な道具についての文章だ。
まず道具箱の一番上には、「語彙」と「文法」を用意し、そして2段目には、「文章作法」を。
その次は?
書き始めること、あなたの作品を。

書くことについて (On Writing)

具体的な執筆方法についての話が中心となっている。
キングは、とにかく「たくさん読み、たくさん書く」ことを勧めている。
たくさん読むことで自然と語彙が増え、そしてその経験があなたの執筆をとてもラクにすると。
この本の最後にある「ブックリスト」は彼が読んで何かしらの影響を受けたという小説をリスト化したものだ。
眺めてみると、アン・タイラーやイアン・キューマンなども含まれていて、彼の作品とは全く似ていないものも含まれていて、幅広く様々なものを読んでいるのがよくわかる。

書くことについては、毎日コツコツ書くという執筆習慣についての話や、本を書くことに集中するには、健康であり家庭生活が落ち着いていて、生活全体が平穏であることが重要であるというような一見すると小説家になるのとは関係ないのでは?というようなことも書いてある。
読んでみるとこのあたりも、確かに平穏さは重要だとよくわかる。

彼の妻であるタビーの話がこの本の中には随所に差し込まれており、キングにとって、たくさんの良質な作品を書着続けるということに、彼女がとても重要な存在であることが伝わってくる。

言葉を飾らないように、余分な言葉をできるだけ削除しろという話はここでも登場する。
スティーヴン・キングという人自身もまた、この本を読んでいると飾らない人間であり、自分が何を言いたいのかよく考えている人のように思う。

生きることについて (On Living)

1999年に彼が生死をさまよう交通事故に出会ったことと、そこから再度仕事に復帰するまでの話が書かれている。これを読むまで、全く事故のことを知らなかったのでかなり驚かされた。
その後、彼はこの文章を書いている2020年11月現在も元気に活躍している。

閉じたドア、開いたドア(Door shut, Door open)

キングの執筆した短編の修正前と修正後が掲載されており、彼が本書で何度も述べている書くことについてのルールが実際にどう適用されているのかが、わかりやすい。
その次のブックリストとあわせて、小説家を目指す人にはとても参考になりそうだ。

ここからは単なる雑記

スティーヴン・キングの小説は、まだ10代の頃(1980年代後半)に何度か読みましたが、基本的にSF、ホラー、ミステリーが当時からあまりハマれず、ほとんど読み通せなかったという過去があります。それでも何度かチャレンジしたのは、どの書評を読んでもとてもおもしろそうだったから、それから当時なんとなくスティーヴン・キングを読んでいるというのってカッコいいことだったんです。

「書くことについて」は2015年に購入して、そのまま途中で読みかけになっていました。途中にキングの作品についての話が、読んでなくても理解できる流れなんだけれど、やっぱり読んでいるほうが面白いよな‥と感じて、ちょっと不貞腐れれモードで中断。
今回改めて、最初からじっくり読み直してみて、今年読んだ本の上位に入る良い本でした。

ちょうど、並行してスティーヴン・キングの「刑務所のリタ・ヘイワース」を読んでいたのも良かったのだと思います。
こちらは、映画「ショーシャンクの空に」の原作ですので、映画はご存知の方も多いのではないでしょうか?

こちらは主催している読書会で、この本の話が出て、実はこの話は原作を読むと「自由の獲得についてではなくて、自由の使い方の本だ」というのを教えていただいて、読んでみました。
映画も良かったのですが、それを上回る良さが原作にはたしかにありました。
1つの本をテーマに様々な、感じ方や意見を聞くのが読書会の醍醐味ですが、実はこういったちょっとしたスモールトークから新しい本のきっかけを掴むのも楽しみの一つです。

読書家については、以下にまとめてありますので、ご興味ある方はこちらを。

開催の目的とお願い

ちなみに「刑務所のリタ・ヘイワース」は以下の「ゴールデン・ボーイ」(新潮文庫)に同時収録されています。

やっぱり怖くて、同時収録されている他の作品は私には読めませんでした…

自身で小説を書いてみようと思ったことはありませんが、小説家の書くこの手の本が好きです。
どうやって彼らがストーリーを作っていて、どこに工夫したり苦労したりしているのかというのは、単なる読み手の私のような人にとってもとても興味深いものがあります。

その他のお気に入りとしては、以下のようなものがあります。

大沢在昌さんも私がまったく読まないジャンルの方です。あの有名な「新宿鮫」も読んだことがありません。
この方の作品はこの1冊しか読んでいないのですが、面白かったです。こちらは講座の受講生の作品に対し、いろいろなアドバイスが入る形式で、なるほどアマチュアとプロの違いはそういうところにあるのか‥というのがよくわかります。

山本甲士さんのほうは読後感が良いものが多くて、時々息抜きに読んでいます。この作品は、左遷されたサラリーマンが小説を書き始め、その書き方を作者の山本甲士さんに教わるというストーリーになっているのですが、素人の方が少しずつ書けるようになっくるのと作品を応募する場合のノウハウなどもあって、小説家を目指す人には、プロへの道がイメージしやすそうな物語です。

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