箱のはなし

先日、元部下から「由子さんって本当に昔から亜流ですよね、」と言われた。
私は彼にとって別に良い上司でもなんでもなかったと思うが、彼はあちこちで私のことを褒めまくってくれていて、さらには「本当にいつも由子さんにはお世話になって」と平身低頭なんだけれど、そのわりには本人に向かって「亜流」と言っちゃうあたりが相変わらずである。
多分、彼は「亜流」という言葉を良い意味だと思っているのだと思う。昔からそういうやや頓珍漢なところのある子だった…。

彼が言いたいのは、1つの組織に属して、きちんきちんと一段ずつ階段を登ることを私がしないことを言っているのだと思う。
それでも彼と同じ会社にいた時は、私にとってはもっともサラリーマンらしい時期だったので、その時期でもそう思われるということは、根っから亜流な人なのだと思う。

20歳から社会人となり、23年が経った。
そのうち正社員として所属したのは、約10年ぐらいで。後は派遣とフリーランス。

一番社員として長かったのは、アメリカの外資系の会社で約5年在籍した。その後転職して国内のベンチャーキャピタルに勤め、疲れてフリーになり、再度呼ばれて週1回で良いからと頼まれたので、その会社の業務委託で5年半ぐらいまた関わることになった(途中で週1回なんて話はどこかにすっ飛び、当初は代理店のケアだけというミッションだったのが、途中から思い切り営業になってしまっていた)。
他で社員として勤めた会社は、どれも2年以内に抜けている。ベンチャーで経営悪化が原因だったり、組織そのものが手の施しようがないほど腐ってしまっていたり、身体を壊したりと様々な理由で。

20代前半の頃はよく派遣先で正社員にならないか…とお声をかけていただいた。
景気もまだそれほど悪くなかったし、自分の年齢も若かったし、私にとって常に派遣の仕事は新鮮で楽しく、我ながらよく働いたし、業界紙もよく読んだし勉強熱心だったから、子どもが小さくて残業は一切しなかったけれど、職場の人が声を掛けてくれる理由も確かにあったと思う。

どこも気持ちのよい職場で楽しかったが、どうしても社員になる気にはなれなかった。
先が見え過ぎるのだ。2年後にもこの席に座って、5年後にはひょっとして部署異動になって、でも10年後も似たような仕事なのだ…と想像しただけで、吐き気がするほど気持ち悪くなった。
まだ女性が管理職になるなどほとんど無いような時代だったので、尚更だったような気もするが、管理職が視野に入った今だってそう思う。
私にとっては、昇進というのは単なる席替えなのだ。

もしもお声掛けされた職場に社員で入ったら、私はもう仕事に対して新鮮な気持ちも抱けないし、いかに時間内で楽するかばかりを考えるようになる気がする。働くことも嫌いになるかもしれないし、不満と愚痴の多い人間になって、自分の毎日は相当にふてくれされたものになると思う。
まさに派遣先が私に社員として期待したことと全く逆の人間になるだろうと思うのだ。

「所属する」ということがすごく苦手なのだと思う。十把一絡げに扱われることが非常に嫌い。だから、友人が好きでも、好きな科目があっても、好きな男の子がいても、学校というのは最悪の場所だった。
先日読んだ「仕事の作法」という本の中で、内田樹先生が、日比谷高校を中退した理由に通勤ラッシュの電車の話を挙げていた。

内田:結構大事な部分だよね。僕は、通勤ラッシュの電車に乗るのが嫌で、十六歳の時に高校を辞めたの。

樋口:え、ほんとうですか?友達関係が嫌とか、もっと別の勉強がしたいとかそういうじゃなくって、一番の理由はそこですか?

内田:うん。最大の理由は満員電車。人がいっぱいいるところが心底嫌いで。大勢がぞろぞろ同じ方向に進んでいくのも嫌いで。そういのはもう理屈じゃないからね。身体的に受け付けない一定以上の人間が狭いところにうじゃうじゃ固まっているのって、生き物として間違っているって感じがする。

これを読んでなんだかすごく近いものを感じた。「理屈じゃない」のである。短い期間なら我慢できる、期間限定なら我慢できる、でも正社員って期間が長過ぎるし、先が見え過ぎるのだ。「箱」に閉じ込められるのが苦手というよりも、恐怖なのだ。

アメリカの会社が長く続いた理由は、1つだけでとにかくあらゆる仕事がやってくるので、先が見えなかったから。
ローカリゼーションプロセスを抜本的に見なおして立ち上げなおしたら、今度はマーケティング、次はシステム周りのプロジェクト・マネジメント、営業やってビジネスデベロップメントやってと、とにかくなんでもやらされた。本社とのプロジェクトも多かったし、海外の取引先とのプロジェクトも結構あった。

どこの会社でもそうだがプロセスを作り上げるとルーティン・ワークになる。
この会社では、ルーティンは社員がやってはいけないというルールがあり、ちょっとでもルーティン的なことをやれば、「おまえの給料はいくらだと思っているんだ!そんなのベンダーにやらせろ」と怒鳴られた。この会社で私がやったルーティン業務は多分自分の交通費の処理ぐらいだと思う。
まぁ、そんなこんなで足掛け10年ぐらいこの会社に軸足があったが、組織が大きくなりすぎて仕事が細分化されてきたのと、つまらないルールが増えると同時に、大企業になりすぎて会社からユニークな人が気がつくとほとんどいなくなり、面白いことがなくなったので、先も見えてしまった、だから足抜けした。今、考えても業務委託としては、破格の条件だったけど、悲しいことに抜けたことを全く後悔したことがない。

素敵でゴージャスでうっとりするようなスウィートルーム。
毎晩必ず決まった時間にこの部屋に帰ってきなさい、安全のために外側から鍵を掛けます、でも、とっても素敵な部屋ですから、あなたもきっと満足します…と言われて、それも素敵かも〜…と、入ってみるとどんなに素晴らしくてもやっぱりそこは「箱」だった。
入るなり出たくなる。さすがにもう懲りたと思うので、箱には入らないと思う。

成果物があってもなくても支払われる固定の年収、オシャレなビルにある天井の高いオフィス、見栄えのする肩書、名刺を出しただけで仕事ができると思われるネームバリューのある社名…
どれも欲しいし、魅力的で素敵だと私だって心から思うのだが(特に心が弱っているときなどは…)、でもでも、そこはやっぱり箱なのである。
ダメだ。身体が受け付けないのだ。

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