ひこうき雲

欲しいものに出会うことが少ない町に暮らすようになって数年。

そんな町で「あ、欲しい」と思うものに出会ったのは、月曜日。
町の唯一の呉服屋さんで。
手に取った麻の半幅帯は、翌日着る予定の玉蜀黍色(とうもろこしいろ)の地に、柑子色(こうじいろ)の格子柄の伊勢の木綿着物を落ち着いたものに見せるはず。
オンラインで見た反物の色と仕立て上がりの色の印象が異なり、五十過ぎの私が着るには可愛らしすぎて悩みながら着ている着物もこの帯があれば、お気に入りの一枚になりそう。

名古屋帯を仕立てるのに比較すれば、確かにずっと安価とはいえ、ユニクロで洋服を買うのとはわけが違う。
こういうときは、ひとまずその場を離れて冷静になって、翌朝以降考えようと大人な態度で店を後に。

翌日の火曜日。
格子柄の伊勢木綿を着て通し柄の紺地の名古屋帯を締める。色の組み合わせは悪くないのだが、帯揚げと帯締めに悩む。帯に合わせるとそれなりのものでないと…となるし、着物に合わせるともっとカジュアルなものでないと何となく合わない。
やっぱりあの麻の帯があれば…。

翌々日水曜日。
デニム地の紺の着物に博多正絹の名古屋帯を合わせる。
博多正絹は軽い上にしっかりと締まるので、登場頻度が高い。
麻の帯も軽くて締めやすいのよね…随分以前に義母から譲られた白地に赤い麻の葉柄の麻の半幅帯は夏の定番。
やっぱり麻はいいよね…と、またそこへ思考は飛ぶ。
水曜日、お店は定休日だ。

そして本日木曜日。
木曜日は商店街のお気に入りの魚屋さんで朝ごはんのための塩鮭と干物を買う日。
もうあの帯はないかもしれないけれど、通り道だから(通らなくても行けるんだけれど)ちょっと見てみよう。
そこにまだあれば、御縁があったということでは…。

御縁があって、手元にやってきた帯は「ひこうき雲」と名付けられていた。

あずき色のその半幅帯は地味で見る人の記憶に残りそうにないけれど、私の箪笥には消えずに長いこと残ってくれるだろう。

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